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福岡地方裁判所 昭和43年(行ウ)14号 判決 1969年4月15日

北九州市門司区錦町二番二五号

原告

岩井清

右訴訟代理人弁護士

鍬田萬喜雄

北九州市門司区清滝町一番地の一

被告

門司税務署長 宮崎民生

右指定代理人訟務部長検事

上野国夫

右同

訟務部第二課長 中野秀吉

右同

法務事務官 東熙

右同

大蔵事務官 大塚悟

右同

小林淳

右同

大神哲成

右当事者間の異議棄却決定取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

被告が原告に対し、昭和四二年三月二七日付でした、昭和三九年分及び昭和四〇年分いずれも所得税の更正に対する異議申立を棄却する旨の各決定をそれぞれ取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨。なお本案については「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との裁判を求めた。

第二、主張

(原告の請求原因)

(1)  原告は肩書地において薬店を営むものであるが、被告に対し、昭和三九年分及び昭和四〇年分各所得税につき次のとおり確定申告をした。

<省略>

(2)  これに対し被告は昭和四一年一一月二六日付で次のように各更正処分をした。

<省略>

(3)  原告は右各更正処分に対していずれも昭和四一年一二月二七日被告に対し異議を申し立てたが、被告は昭和四二年三月二七日付で右異議申立をいずれも棄却する旨の各決定(本件決定)をした。そこで原告は同年四月二七日に福岡国税局長に対し各審査請求をしたが、同年一二月一九日付で右審査請求をいずれも棄却する旨の各裁決がなされ、同月二六日その旨原告に送達された。

(4)  被告のなした右異議申立棄却決定書の決定の理由欄には右両年分いずれについても、次のような記載がなされている。

「異議申立に対する再調査は下記のとおりであり 第一回臨戸 四二・三・一七

第二回臨戸 四二・三・一八

第三回臨戸 四二・三・二五

その都度民商事務局より、関係書類を自宅に持帰つておくよう指示していたにもかかわらず、その指示に応ぜず、本人は更正の内容を具体的に説明せよと申立てるのみで、全然調査に応じないので調査は不能である。

また当初調査額についても、再検討したが非違事項がないので異議申立てを棄却する。」

(5)  しかし、右掲記の理由附記では、行政不服審査法第四一条第一項、第四八条に定める理由附記の要件を満たさないものであり、その意味において本件決定は取消を免れない。

(被告の本案前の抗弁)

次の各理由により本件訴えは不適法であり却下を免れえない。

(1)  出訴期間を経過している。即ち、国税通則法第七九条第三項によれば、審査請求の対象となるのは異議申立決定を経た後の原処分に限られ、本訴で原告が取消しを求めている異議決定は審査請求の対象とはならないので、その取消を求める訴えは、行政事件訴訟法第一四条第一項により、その決定のあつたことを知つた日から三ケ月以内に提起しなければならない。原告が異議決定のあつたことを知つた日は昭和四二年三月二八日であり、本訴提起は昭和四三年三月二五日で三ケ月をはるかに経過していることになる。

(2)  訴えの利益を欠くものである。即ち、本訴において仮りに本件異議決定が取消された場合には、同法第三三条第二項により、異議申立について未だ決定のない段階に戻ることになるが、そうなれば、国税通則法第八〇条第一項第一号により、「異議申立てがされた日の翌日から起算して三月を経過する日までに、その異議申立てについて決定がされないとき」に該当することになり当然に異議申立は審査請求とみなされることになる。ところが原告からは既に別に審査請求がなされ、これにつき昭和四二年一二月一九日付をもつて棄却の裁決がなされているので、右の審査請求とみなされた申立は二重請求となり、審査庁において実体的判断をせずに却下されることになるので、結局本訴で異議決定を取消す法律上の実益がなく、従つて訴えの利益がないことになる。

(請求原因に対する答弁)

請求原因第(1)ないし第(4)の各事実いずれも認め(但し、第(2)項中の昭和三九年分の総所得金額は原告主張のように一九三万〇、八〇〇円ではなく、一七三万〇、八〇〇円である)、同第(5)については争う。

(本案前の抗弁に対する原告の主張)

(1)  本案前の抗弁(1)について。

本件は行政事件訴訟法第三条第三項の「裁決の取消しの訴え」に属するものであるが、税務訴訟においては不服申立前置主義を採用し、審査請求をすることができる処分にあつては審査請求についての裁決を経た後でなければ訴えを提起することができない(国税通則法第八七条第一項)。本件において審査請求に対する国税局長の裁決は昭和四二年一二月一九日になされ、そのことを原告は同月二六日送達によつて知つたものであつて、同日より三ケ月以内に提起された本訴は適法である。被告主張の如く異議決定の取消しを求める訴えは、その決定があつたことを知つた日から三ケ月以内に提起すべきものとするならば、審査請求の有無とは関係なく独立に異議決定取消訴訟を提起することが許されることとなつて、明らかに前記不服申立前置主義の規定の存在を無視するのみならず、被告の主張を前提とするならば、審査請求の審理を遅延するにおいては納税者は常に異議決定取消訴訟を提起することができないこととなり、その不当なること多言を要しないものである。

(2)  同(2)について。

被被告主張の国税通則法第八〇条第一項一号の規定は、異議決定の遅延によつて異議申立人の蒙ることあるべき不利益を救済する趣旨に出たものであつて、異議決定が判決によつて取消された場合には同規定の適用はない。即ち、仮りに異議決定が取消されると当然にみなす審査請求に移行するものとするならば、行政事件訴訟法第三条第三項が異議決定取消訴訟を認め、且つ同法第三三条第二項が取消判決があれば異議決定庁に対し改めて異議申立に対する決定をなすべきことを義務づけた趣旨を否認することになるからである。従つて以上によれば被告主張のように二重の審査請求となることはない。

第三、証拠

原告は甲第一ないし四号証を提出し、被告は右各甲号証いずれもその成立を認めた。

理由

まず本訴が出訴期間内に提起されたかについて検討する。

本件異議棄却決定の取消しを求める訴えは、その決定があつたことを知つた日から三ケ月以内に提起しなければならないと解すべきことは被告主張のとおりである。そして、原告が本件異議棄却決定のあつたことを知つたのは昭和四二年三月二八日であることについては原告において明らかには争わないのでこれを自白したものとみなされ(因みに、原告は同年四月二七日に審査請求をしているので遅くともこの日までには知つたことになる)、それより三ケ月を経過した昭和四三年三月二五日に本訴が提起されていることは本件記録に徴して明らかである。

以上によれば、本訴は出訴期間経過後に提起され不適法であるといわざるを得えいからこれを却下することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 川上孝子 裁判官山口茂一は転任につき署名捺印することができない。裁判官 中池利男)

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